会長挨拶

写真:木村先生

2024年4月1日
静岡大学 教授
木村 洋子

この度、酵母遺伝学フォーラム・21代会長を務めることになりました木村 洋子です。どうぞよろしくお願いいたします。 

真核生物の普遍的な現象解明に最適な酵母に魅せられ、大学院後期から始めた酵母の研究を、途中寄り道しながらも、今も続けています。そして、今でも酵母の研究をやっているのは、このフォーラムがあったからだと思います。
 大学院生の時に参加した八王子セミナーハウスでの集談会(フォーラムの前身)は、衝撃でした。活発な意見、鋭い質問、フレンドリーな雰囲気に、心底感動しました。それから30年以上、フォーラムは私の研究生活にとって大切な学会であり続けています。

このフォーラムの強みは、酵母というキーワードだけで、会員が繋がれることです。
 他の人の発表を聞く、自分の発表をするというだけの一方通行になりがちな大きな学会とは違い、ここならば、一度も話したことがない人にも思い切って話しかけられ、知り合いになれ、詳細な情報交換ができ、その後も議論をすることができます。自分の研究室だけでは解決できない問題も、ここに投げかけると解決することがあります。その分、他の研究者の困りごとを相談されると、何とか解決できないかと知恵をしぼり、持つ限りの情報を伝える努力をします。これはこのフォーラムの素晴らしいところであり、この素晴らしさをもっと極めていかれればと思います。

最後に、私の今の思いを「The Lord of the Ring (指輪物語)」の一節から紹介します。これは、主人公のフロドのもとに魔力を持った指輪がやってきて、それを世界の果てに捨てにいく冒険物語です。アメリカに留学したときに友人から薦められたものの、そのときは長編すぎて第一巻で挫折しましたが、その中に、下記の会話があることを最近知りました。
 フロドは、自分は危険な冒険なんか向いていないのに、なぜ指輪が自分に来たのか、どうして自分が選ばれたのかと訴えます。それに対して、賢者の魔法使いガンダルフは答えます。

「そのような問いは、だれにも答えられん。」

「ただ、そうなったのは何も、他の者が持たぬ長所のせいではないし、力や知恵のせいではないことは、自分でしかとわかっておろうな。しかし、すでにあんたは選ばれてしまった。そこであんたは、持てる限りの力と勇気と知力をふるいたてなくてはならんのじゃ。」

『指輪物語~旅の仲間(評論社)』

今回、会長になった以上、私は持っている限りの力と勇気と知力を使い、会員の皆様と一緒に、このフォーラムの強みを積極的に活用し、より深い研究ネットワークが広がり、酵母コミュニティー全体の研究力をアップできるよう尽くしたいと思っております。